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浦和地方裁判所 平成7年(ワ)890号 判決

原告

武内聡

有山靖彦

右原告両名訴訟代理人弁護士

大内英男

被告

株式会社プリムローズカントリー倶楽部

右代表者代表取締役

長野和郎

右訴訟代理人弁護士

小林伸年

嵜山雄治

主文

一  被告は、原告ら各自に対し、それぞれ一八〇〇万円及びこれに対する平成七年六月七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

主文同旨。

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  被告は、ゴルフ場の経営等を目的とする会社である。

2  原告らは、各々、平成元年一月三〇日、被告との間に、左記ゴルフ場の会員となる入会利用契約を締結し、そのころそれぞれ入会金二五〇万円、預かり保証金一五五〇万円合計一八〇〇万円を支払った。

ゴルフ場名 プリムローズカントリー倶楽部

所在地 埼玉県比企郡小川町大字飯田一〇五番二

3  右入会契約において、ゴルフ場の開場予定は、平成四年秋となっていた。しかし、訴状の送達された平成七年六月六日段階でも右ゴルフ場は開場されていない。

4  原告両名は、平成七年四月五日到達の内容証明郵便で、被告に対し、被告の履行遅滞を理由に、前記ゴルフ場入会利用契約を解除する旨の意思表示をした。

5  よって、原告らは、各自、被告に対し、入会金二五〇万円、預かり保証金一五五〇万円合計一八〇〇万円の返還と、これに対する訴状送達日の翌日である平成七年六月七日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否と被告の反論

1  請求原因1、2は認める。

2  同3は、現在までゴルフ場が開場していない点は認めるがその余は否認する。

3  同4は認める。

4  被告の主張

(一) 被告は、平成六年五月二三日付で、埼玉県知事に対し、本件ゴルフ場の開発行為につき変更許可申請を為し、右申請に対し、埼玉県知事は平成六年一〇月二五日、右開発許可事項変更許可を為した。

従前は、工事施工業者としてフジタ工業株式会社が予定されていたところ、十分な工事の進捗をみなかったため、これを右変更申請に際し、大日本土木株式会社及び木下建設株式会社の共同企業体による工事施工と変更し、現在従前の工事を続行している。

右変更工事は、コース面積は1.548ヘクタール低減されたが、そのコース内容は従前とほとんど変更がない。また工事進捗状況も右変更申請当時で約四〇パーセント程完成しており、その後平成七年二月から工事を再開し、完成予定日は、右変更申請によれば、平成八年五月三一日である。

(二) 右のとおり、本件ゴルフ場の開場予定日は当初の予定よりも遅延しているが、右遅延には正当事由が存し、右変更後の完成予定日を考慮するなら解除を正当化するほどの遅延状況には達していない。

三  原告らは、被告の前記主張二4を争う、と述べた。

第三  証拠関係は、訴訟記録中の証拠関係目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実および、原告らが被告との間で、平成元年一〇月三〇日、本件ゴルフ場入会利用契約を締結し、被告に対し、各自入会金二五〇万円、預り保証金一五五〇万円合計一八〇〇万円を支払ったこと、は当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲四の1・2によれば、被告は、入会契約募集のパンフレット等において本件ゴルフ場の開場予定時期を平成四年秋と明示していることが認められる。したがって、原告らと被告との本件ゴルフ場入会利用契約においては、ゴルフ場の開場予定は平成四年秋と約束されていたと認められる。

三 ところで、預託金会員制のゴルフクラブに入会する目的は、通常当該ゴルフ場を会員としての種々の優先的特典を享受しつつ利用することにあるから、会員にとってゴルフ場がいつオープンするかは最大の関心事であるといわなければならない。もっとも、ゴルフ場の建設には莫大な用地を必要とし、行政庁の許認可やゴルフ場の建設工事に相当長い期間を要し、その間に予想外の法令上ないし事実上の障害が生ずることもあるから、ゴルフ場の開場が予定時期に多少遅れた場合でも、遅滞事由と遅滞期間とを勘案し、その遅れが社会通念上許容される範囲内と認められるときには、会員としてもこれを受忍しなければならない場合があるといえる。しかし、いかなる理由にせよ、開場が約束した時期から二年以上遅れるという場合には、会員としてはプレーができないまま多額の金員を預け金等としてゴルフ場側に預託している以上、もはや社会通念上相当として是認される遅延の限界を原則的に超えたと認めるべきであり、会員契約をゴルフ場側の債務不履行を原因として解除することができるというべきである(右不履行の性質上催告は不要)。

四 しかるところ、被告は、前記の開場予定の約束を守らず、訴状送達日の平成七年六月六日の段階でも開場していないことは被告の自認するところであり、被告の提出にかかる県知事に対する「施工状況報告書」(乙六)によったとしても同年三月末段階での工事進捗率は36.8パーセントに留まっていることが認められる。そして、被告の主張する変更工事が、今後仮に順調に進捗するとしても、開場は早くとも平成八年五月三一日であるというのであるから、ゴルフ場の開場は予定よりも三年半は遅れることになり、その遅れを社会通念上是認すべき事情は本件証拠上何ら窺うことはできない(ゴルフ場工事のための資金不足は正当な理由にならないことはいうまでもない。)。

五  そうすると、原告らの本件ゴルフ場入会利用契約を解除する旨の意思表示は有効というべきであるから、各自、入会金二五〇万円と預かり保証金一五五〇万円の合計一八〇〇万円の返還を求める原告らの請求は全部理由があると認められる。

六  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官豊田建夫)

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